MOOとは『臼歯を中心とした矯正診断と治療』の意味です。
これは、IOO『切歯を中心とした矯正診断と治療』に対する言葉として位置づけられます。
(有本、賀久、篠原 2011)

MOO(エム・オー・オー): Molar Oriented Orthodontics 『臼歯を中心とした矯正診断と治療』
IOO(アイ・オー・オー): Incisor Oriented Orthodontics『切歯を中心とした矯正診断と治療』

従来、矯正治療における診断や治療の基準は、切歯の位置付けでした。最初にその重要性に気づき、診断・治療法を確立したのはCharles H. Tweedです。
彼は、当時の最新技術であったエッジワイズブラケットで、これを発明したアングル(現代矯正学の父と言われます)の教えに従って治療した自分の治療結果にどうも満足できませんでした。口元が突出したのです。そして、それを解決するには下顎切歯をもっと直立させなければいけないのではないか、と考えます。

そして、これも当時発表されて間もないセファロメトリックス(頭部X線規格写真)により、下顎切歯の位置付けを評価し、「ツイード三角」として基準を示しました(Tweed 1962)。これが、IOOの始まりです。以降、様々な矯正診断の分析法が発表されてきましたが、いずれも下顎切歯や上顎切歯の位置付けを基準目標とするもので、本質的には全てIOOの範疇に含まれるものです。

ところが、当時の治療技術の元にこの下顎切歯を直立させようと思えば、多くの場合で小臼歯抜歯を余儀なくされることになりました。1970年代のアメリカの矯正治療の小臼歯抜歯率は実に70-80%とも言われます。

一方、Norman M. Cetlinは当時小臼歯抜歯が避けられないような症例で、非抜歯で治療した症例を発表しました(Cetlin & Ten Hoeve 1983)。彼は何をしたのでしょうか?それは、前歯の配列の前に奥歯の位置付けを立て直したのです。

不正咬合をよく観察すれば、ほとんどの場合で奥歯の位置付けが手前や内側に傾斜しており、そうした状態が前歯の重なりや突出などに影響していることがわかります。Cetlinは、まずこの傾斜した奥歯をたてなおしてから前歯の配列を行ったのです。

切歯の位置付けを評価する前に臼歯(奥歯)の位置付けを正す。結果的に多くの場合で小臼歯抜歯が必要なくなる。これこそが、MOOの基本となる考え方です。

MOOは、臼歯のアップライトを診断と治療目標に組み込みます。具体的には下顎臼歯を頬舌的・近遠心的に立て直すこと、その下顎臼歯の位置付けに対して上顎臼歯を正しく位置付けること、その臼歯の位置付けに従って前歯を位置付けること。このように、臼歯の位置付けについて明確に治療目標を持つ考え方は他にありません。

もちろん切歯の位置付けも、噛み合わせや審美性に大きく影響しますので、重要なことには違いありません。MOOはまず、臼歯の位置付けを立て直したのちに、切歯の位置付けを判断して治療を進めるということであり、決して小臼歯抜歯そのものを否定するものではありません。そういう意味で、MOOは単に抜かないがための『非抜歯矯正』とは一線を画すのです。

有本 博英